📖 この記事について
- 全体の読了時間:約15分
- こんな方におすすめ:株価が下がると売りたくなる方、貯金や積立がなかなか続かない方、「今は買い時なのか」が気になって投資を始められない方
- 時間がない方へ:各章に読了時間を表示しています。目次から気になる章にジャンプしてください。
お金の判断は、知識だけで決まるわけではありません。値下がりが怖くて売ってしまう、今は高い気がして始められない、残ったら貯めようと思っても残らない。こうしたつまずきの多くは、意志の弱さではなく、人に共通する「心のクセ」から生まれます。
この記事は、あといくらの「お金の心理」の記事をひとつにまとめたガイドです。研究を紹介するときは、誰が、いつ、何を示したかを添え、推定値には限定もあわせて書きます。書籍の主張は著者の見解として紹介します。詳しい解説はそれぞれの記事にゆずります。
📌 30秒で読める要点まとめ
- 人は、同じ額なら利益より損失を重く感じやすい(損失回避)。値下がりで売りたくなるのは自然な反応
- 同じ内容でも、言い方ひとつで判断が変わることがある(フレーミング効果)
- 投資額は「下がっても我慢できる額」で決めておくと、慌てにくい
- 「今が買い時か」を当て続けるのは難しい。決まった額を淡々と積み立てるほうが続けやすい
- 「残ったら貯める」より「先に移して、残りで暮らす」。自動化すると感情に左右されにくい
- 複利の効果は時間がたつほど大きくなる。途中でやめないことが大切
- 「プロが勧めるから安心」とは限らない。誰が得をする仕組みかを確かめる
- お金の話を避ける空気に気づくことが、お金と上手に付き合う第一歩
時間がない方は、上記の要点だけ把握いただければOKです。詳細を知りたい方は、続きをどうぞ。
あといくらちゃんの本音
資産形成でいちばん難しいのは、商品選びよりも「続けること」だと、あといくらちゃんは思っています。値下がりのニュースを見れば不安になるし、給料日の前はお金が気になる。それは誰にでも起きることです。
だからこそ、自分の心のクセを先に知っておいてほしいのです。クセを知っていれば、不安になったときに「今、あのクセが出ているな」と一歩引いて考えられます。この記事は、そのための地図として書きました。
損をこわがる脳:損失回避とフレーミング
(読了時間:約3分)
株価が下がると売りたくなる。含み損を抱えた株をなかなか手放せない。怖いからと現金のまま置いておく。こうした行動の背景にあるのが、「損失回避」と呼ばれる心のクセです。
- ▸投資を先送りする:元本割れが怖くて、お金を預金に置いたままにしてしまう
- ▸含み損を確定できない:損を認めたくなくて、見直すべき商品もずるずる持ち続けてしまう
- ▸含み益を早く確定しすぎる:利益が消えるのが怖くて、長く持てば育ったはずの資産を手放してしまう
- ▸暴落時に売ってしまう:これ以上減るのが耐えられず、いちばん売らないほうがよい場面で売ってしまう
どれも、意志が弱いから起きるのではありません。次に紹介する研究が示すように、人に広く共通する反応です。
心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーは、1979年に学術誌 Econometrica に発表した「プロスペクト理論」で、人は結果を「基準からの得と損」として受け止め、同じ額なら損失を利益より重く感じることを示しました。
どのくらい重く感じるのかについては、二人が1992年に学術誌 Journal of Risk and Uncertainty に発表した論文で、損失は同じ額の利益のおよそ2倍重く感じられるという推定を示しています。ただし、これは大学院生を対象にした少人数の実験から得た推定で、人や状況によって幅があります。カーネマンの著書『ファスト&スロー』(村井章子訳・早川書房・2012)でも、一般向けに解説されています。
同じ内容でも、言い方で判断が変わる
トベルスキーとカーネマンは、1981年に学術誌 Science に発表した研究で、同じ内容の選択肢でも、「得」の言い方で示すか「損」の言い方で示すかによって、人の選び方が逆転することを示しました。これを「フレーミング効果」といいます。
研究が示しているのは、人の判断が表現に左右されるということです。「損している」ではなく「安く仕込めている」と言い換えて気持ちを落ち着ける、という工夫も紹介されることがありますが、これはこの性質を逆に使おうとする工夫で、研究がその効果を確かめたものではありません。
下がることを前提に、投資額を決めておく
損失回避そのものをなくすことはできません。大切なのは、クセが出ても慌てずにすむ額にしておくことです。経済評論家の山崎元さんは、投資は悪いときには1年で3分の1ほど損することもあると考えて、投資する金額は「3分の1減っても自分が我慢できる金額」で決める、という考え方を示していました(山崎元「老後向けの投資は『3種類』で十分な理由」PRESIDENT WOMAN Online・2017年8月)。
あわせて、毎月決まった額を自動で積み立てる設定にして、値動きを頻繁に見ないようにすることも、クセとうまく付き合う方法のひとつです。値下がりして売りたくなったときは、「何年も先の自分なら、今の判断をどう思うだろう」と時間の物差しを長くしてみると、目の前の痛みに引っぱられにくくなります。
詳しくはこちら
損失回避と、投資をやめたくなる瞬間:なぜ人は損をしたくないあまり投資をやめてしまうのか →
損失回避が資産形成で起こす「やらかし」と対策:「損失回避バイアス」があなたの資産形成を邪魔している →
「今が買い時か」を考えない
(読了時間:約2分)
「最近は株価が高い気がするから、もう少し下がってから始めよう」。そう考えるのは自然なことです。ただ、「今は高いか安いか」を判断するということは、これから株価が上がるか下がるかを予測するということでもあります。
バートン・マルキールは『ウォール街のランダム・ウォーカー』(井手正介訳・日経BP)で、株価の短期の動きを予測し続けることは難しく、個人にとっては市場のタイミングを計るよりも、長く持ち続けるほうが向いている、という見解を示しています。ジョン・ボーグルも『インデックス投資は勝者のゲーム』(藤原玄訳・パンローリング・2018)で、相場に合わせて出入りするより、市場に居続けることを説きました。
待っているあいだにも相場は動き、上がる日を逃すこともあります。具体的には、毎月決まった額を自動で積み立てる方法(ドルコスト平均法)を使うと、「今が買い時か」を考えずにすみます。値段が高い月は少なく、安い月は多く買うことになるので、買う時期が自然にばらけます。
- ▸積立は自動の設定にして、毎月の判断をなくす
- ▸「株価急落」のニュースを見ても、積立の設定は変えない
- ▸基準は「今が高いか安いか」ではなく「長く持ち続けられるか」にする
- ▸長く持つ前提なので、手数料の低い商品を選ぶ
詳しくはこちら
タイミングを計る難しさと、待つことのコスト:「今が買い時か」を考えることがすでに間違いな理由 →
仕組みで感情を外す:先取りと自動化
(読了時間:約2分)
「今月は余ったお金を貯金しよう」と思っても、月末にはほとんど残っていない。これも、よくあるつまずきです。
そこで役に立つのが「先取り」です。米国の著述家デビッド・バックは、著書『The Automatic Millionaire』(2003年)で、生活費より先に未来の自分への支払いを済ませる「まず自分に払う(Pay Yourself First)」という考え方を、給料から自動で積み立てる仕組みとして広めました。給料が入ったら先に貯蓄や投資の口座へ移し、残りで暮らす。順番を入れ替えるだけで、意志に頼らずに続けやすくなります。
先取りの受け皿としては、NISAの積立や職場の財形貯蓄、iDeCoのように、毎月決まった日に自動で引き落とされて積み立てられる仕組みが使えます。一度設定してしまえば、毎月「今月も積み立てよう」と決め直す必要がありません。制度の細かな条件は変わることがあるので、使う前に公式の情報で確かめてください。
お金の不安も、同じように仕組みで小さくできます。不安の正体は、金額の少なさよりも、お金の流れが見えない、自分でコントロールできていないという感覚であることがよくあります。まず作りたいのは、次の三つです。
- ▸先取りの仕組み:給料が入ったら、使う前に決まった額が自動で別の口座に移るようにする
- ▸見える化の仕組み:家計簿アプリでもメモでもよいので、毎月いくら入って、いくら出て、いくら残るかが分かるようにする
- ▸いざというときのお金:急な出費や収入減に備えるお金を、投資とは別に確保しておく
この三つがそろうと、「今月は大丈夫かな」という、なんとなくの不安が静かになっていきます。
詳しくはこちら
先取り貯蓄の考え方と始め方:給料日に自動で投資される「先取り貯蓄」が最強な理由 →
お金の不安を仕組みで小さくする方法:お金の不安は「金額」ではなく「仕組み」で解消できる →
複利と時間を味方にする
(読了時間:約2分)
複利とは、元本だけでなく、増えた分にもさらに利息や運用益がつくしくみです。雪だるまのように、転がすほど大きくなっていきます。
複利の力をざっくりつかむには「72の法則」が便利です。「72 ÷ 年利(%)」で、複利でお金が2倍になるまでのおよその年数が分かります。たとえば年6%なら、およそ12年です。あくまで目安の近似で、実際の運用では値動きがあり、元本割れのリスクもあります。
複利の難しいところは、最初のうちは増え方をほとんど実感できないことです。そのため、途中で「思ったより増えない」とやめたくなることもあります。効果が大きくなるのは後半なので、続けることそのものが大切です。複利を味方にするための行動は、シンプルに次の三つです。
- ▸早く始める:複利は時間が長いほど効くので、少額でも早く始めるほど有利になる
- ▸コストを低く抑える:手数料も時間とともに効いてくるため、低コストの商品を選ぶ
- ▸売らずに持ち続ける:相場が下がっても慌てて売らず、時間を味方につける
詳しくはこちら
複利のしくみと72の法則:複利の力を詳しく読む →
「プロが勧めるから安心」を疑う:利益相反
(読了時間:約2分)
銀行や証券会社の窓口で商品を勧められると、「プロが勧めるのだから安心」と感じやすいものです。けれども、勧める側の会社にとって利益の大きい商品と、あなたにとって有利な商品が、いつも同じとは限りません。このように、お互いの利益が反対を向いている状態を「利益相反」といいます。
窓口でよく聞く言葉には、次のようなものがあります。どれも、そのまま信じる前に一度立ち止まって確かめたいポイントです。
- ▸「今だけのキャンペーンです」:期限を区切られると、考える時間がなくなる。急いで決める必要があるのか確かめる
- ▸「元本確保型なので安全です」:その安心の分、手数料や為替のリスクがかかっていないか確かめる
- ▸「分散されているので安心です」:中身を見ると、似たものばかりに投資していることもある
- ▸「毎月分配型で生活費の足しになります」:分配金が運用の利益ではなく、自分のお金の払い戻しにすぎない場合もある
とくに差が出やすいのがコストです。ジョン・ボーグルは『インデックス投資は勝者のゲーム』(藤原玄訳・パンローリング・2018)で、手数料などのコストが長期の資産形成の成果を削ることを繰り返し説きました。商品を勧められたら、手数料がどれだけかかるのか、その商品で誰が得をするのかを確かめてから判断しましょう。顧客の利益を優先すると明言しているアドバイザーや、商品を売らずに相談料だけで動くファイナンシャルプランナーを選ぶ、という方法もあります。
詳しくはこちら
金融機関のアドバイスと利益相反の仕組み:なぜ銀行・証券会社のアドバイスを鵜呑みにしてはいけないのか →
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お金の話を避けない
(読了時間:約1分)
「お金の話をするのははしたない」と感じる人は少なくありません。この感覚がどこから来たにせよ、お金の話を避けていると、次のような大事なことが後回しになりがちです。
- ▸給料や報酬の交渉:お金の話をするのが気まずくて、切り出せない
- ▸投資の勉強:「お金を増やそうとするのは欲張り」と感じて、興味を持てない
- ▸詐欺への備え:お金の話を真剣に学んでこなかったぶん、うまい話を見抜きにくい
- ▸老後の準備:お金のことを考えること自体を、先延ばしにしてしまう
お金は、それ自体が目的ではなく、自分らしく生きるための道具です。まずは毎月の収入と支出を書き出してみる、制度をひとつ調べてみる。そんな小さな一歩から、お金と上手に付き合う習慣が始まります。
詳しくはこちら
お金を避ける気持ちとの向き合い方:お金を「汚いもの」と思いこむ日本人の呪いを解く →
まとめとよくある質問
(読了時間:約3分)
お金の判断には、損失を重く感じる、言い方に左右される、目の前のお金を使ってしまう、といった心のクセが入りこみます。クセそのものはなくせませんが、知っておけば一歩引いて考えられます。そして、投資額を我慢できる範囲にしておく、先取りと自動化で感情が入りこむ余地を減らす、コストと利益相反を確かめる、といった仕組みで、クセに振り回されにくくできます。
自分の場合に、積立を続けるとどうなるのかは、自分の数字を入れて確かめてみるのがいちばんです。

あといくらちゃんのまとめ
損をこわがるのも、今が買い時か気になるのも、人として自然なこと。大事なのは、そのクセを知って、仕組みで自分を助けてあげることです。お金に振り回されるのではなく、お金と上手に付き合いながら、自分らしい人生を選んでいきましょう。
よくある質問
Q. 株価が下がると売りたくなるのは、意志が弱いからですか?
いいえ。人は、同じ額なら利益より損失を重く感じやすいことが知られています(損失回避)。誰にでもあるクセなので、投資額を下がっても我慢できる範囲にしておく、自動積立にして値動きを頻繁に見ない、といった仕組みで付き合うのがおすすめです。
Q. 株価が高いときは、下がるのを待ったほうがいいですか?
短期の値動きを当て続けるのは難しく、待っているあいだに上がる日を逃すこともあります。毎月決まった額を自動で積み立てる方法なら、「今が買い時か」を考えずに続けられます。
Q. 貯金や積立が続かないのですが、どうすればいいですか?
「残ったら貯める」をやめて、給料が入ったら先に貯蓄や投資の口座へ自動で移す「先取り」の仕組みを作ってみてください。金額は少なくてもかまいません。意志に頼らない仕組みにすることが、続けるいちばんの近道です。
Q. 銀行や証券会社で勧められた商品は、信用していいですか?
勧める側の利益とあなたの利益が、いつも同じとは限りません。手数料がどれだけかかるのか、その商品で誰が得をするのかを確かめ、納得してから判断しましょう。
Q. お金の話をするのに抵抗があります。
そう感じる人は少なくありません。ただ、お金の話を避けていると、交渉や投資、老後の準備が後回しになりがちです。お金は自分らしく生きるための道具と考えて、毎月の収入と支出を書き出すような小さな一歩から始めてみてください。
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※本記事は情報提供目的であり、投資・金融のアドバイスではありません。研究や書籍の紹介は、記事の時点で確認した範囲のものです。投資判断はご自身の責任でお願いします。

